絵本『うさぎのしま』秘話|著者 近藤えりさん直伝
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戦後80年の2025年出版、『うさぎのしま』(作/たてのひろし、近藤えり 出版/世界文化社)は大変話題になったので、多くの学校図書館で購入されていると思います。
著者の近藤えりさんにお話しを伺うことができました。
『うさぎのしま』
作/たてのひろし 近藤えり 出版/世界文化社2025年
瀬戸内海に浮かぶ大久野島。現在は「うさぎの島」と呼ばれ、「多くのかわいいうさぎに会える島」として人気の観光地。
明るいイメージの半面、戦時中は「毒ガス製造」をし、うさぎを実験に使っていたという過去も。
戦争は「加害と被害」の側面がある。大切なメッセージがこめられた、著者の渾身の作品。評価の高い話題作です。
受賞された賞など
- 全国学校図書館協議会2026「えほん50」選定
- 第31回日本絵本賞最終候補絵本
- 第7回親子で読んでほしい絵本大賞8位
- 第4回横浜茶話会絵本大賞

マンツーマンでお話を伺い、とても贅沢な時間でした。
絵本で語られていない著者のお話、お伝えしたいことがたくさんあります。
扉を開けたら、近藤えりさんとたてのひろしさんが!
JIKE HOUSで開催の『うさぎのしま』の原画展へ。
最終日8月16日は、著者お二人が「在廊」。
近藤えりさんは、優しくやわらかい絵の雰囲気の通り、明るくかわいらしい笑顔で、
たてのひろしさんは、お声が大きくエネルギッシュ、細密画を描かれる繊細さも魅力、絵本界の重鎮らしい面持ちで出迎えてくださいました。

やさしいパステル画
繊細で細かい人々の表情も樹木の様子も、また大きな澄み渡る青空もパステルで描かれているそう。
表紙の、まっすぐにこちらを見つめる白いうさぎは何を語っているのでしょうか。
最初のテーマは「うさぎしま」ではなかった
近藤さんがうさぎをテーマに絵本を描こうと思われたのは、「捨てうさぎ」を知ったから、とのこと。

「捨てうさぎ」ってなに?
「捨て犬」「捨て猫」は聞いたことがあるよ

飼えなくなったのか、今、かなりの数のうさぎが捨てられているそうですよ。

見たことないけど?

そうね、うさぎは泣かないから、気が付かれないようです。
また、悲しいことに捕食の対象になるそうだし・・・
近藤さんのお母様が「捨てうさぎ」を保護されたところから、うさぎを調べはじめたとのこと。
最初は「捨てうさぎ」の絵本を描いて、「みなに伝えたい」と思われていたそうです。
たてのさんから「うさぎの絵本を制作するなら、もっとうさぎを見たほうが」とアドバイスをいただいたことがきっかけで、大久野島に訪れ、歴史を知り、衝撃を受けたそうです。
さまざまな「NG」の壁 ①
大久野島のうさぎを題材に『うさぎのしま』にすることに対し、大久野島の研究者のひとり、山内正之氏は「NG」を出されたそうです。
もしかして、山内氏の「絵本」のイメージは、「かわいい」「子どもが喜ぶ」「楽しい」という娯楽要素が強かったのでしょうか。
絵本は世代を問わず、広く、心に深く届けることができる素晴らしいメディア。
近藤さんは取材を進めて、ラフを描き、思いを何度もお伝えし、ようやく山内氏のご承諾を得られたとのこと。
その後は、縁も深まり、多くを教わりご協力いただけたと、近藤さんは感謝のお気持ちをお話しくださいました。
山内氏にも個人的に、大久野島の歴史に深く重い思いを抱えていたそうです。
広島県の高校社会科教諭であった頃、大久野島の歴史を知らず、子どもたちに教えることができなかったことを重く受け止め、リタイア後の現在も研究・調査・発信を続けていらっしゃる、とのこと。
ご高齢になられても、重い書籍や荷物もご自分で運び、水泳などでお体も鍛えていらっしゃる。長く活動をされたいという強いお気持ちが伝わるエピソードは、色々な意味で勉強になりました。
役に立つ書籍
『大久野島の歴史』三度も戦争に利用され、地図から消された島 毒ガス被害・加害の歴史
著/山内正之 発行/大久野島から平和と環境を考える会 2020年

さまざまな「NG」の壁 ②
出版にあたり、企画書をある出版社に持って行ったそうですが、これが「NG」。
現在は観光地化された国立公園。国の管理下。
消し去られた歴史と現在も続く諸問題を掘り下げた、平和を問いかける絵本。「大人の事情」でしょうか?
しかし、世界文化社は折しも創立80周年を迎える、戦後80周年、これまで戦争を扱った絵本を制作したことがない、などが重なり、出版に至ったそうです。
近藤さんが大久野島で「住み込みバイト」!?
近藤さんは2023年から大久野島の取材を開始。
大久野島の取材やスケッチのため、何度も大久野島に通われた近藤さん。
なんと、スタッフとして住み込みで働いていた、とのこと。
休憩時間などを利用して、うさぎや観光客、島の様子のスケッチや取材。
「現代」を伝えるため、観光客にインタビューもなさったそうです。

1冊の絵本には、著者の「思い」だけでなく、大変な努力と苦労がつまっているのですね。
たてのさんと近藤さんの大久野島との縁に衝撃
たてのひろしさんのおじいさま
舘野基忠氏は、現在の東大(旧東京帝国大学)を主席で卒業後、ドイツで何かの研究。帰国後は忠海に配属。そこで何をしていたかは、ご家族にも語ることはなかったそうです。
晩年、おじいさまの「ぐるぐる回せ!」とうわ言をご家族は聞いたそうです。
大久野島への玄関口である忠海、何かの製造に関わられていたおじいさま。
かなりの確率で「毒ガス」ではないか、とのこと。
ご家族にも告げず、1996年に91歳でお亡くなりになるまで、どのようなお気持ちだったのか、想像にも及びません。
近藤さんのおじいさま
広島の軍人だったおじいさま。戦後は「こんにゃく屋」を営んでいたそう。
当時、風船爆弾は和紙をこんにゃく糊で張り合わせていたとのこと。
戦後は、戦時中に全国から集めたこんにゃく芋の残りで「こんにゃく屋」を営む元軍人が多くいたそうです。
大久野島で風船爆弾が製造されていたこと、近藤さんも「忠海」という言葉が記憶にあったこと、「こんにゃく屋」…パズルがぴったりとはまります。
「たてのさんと近藤さんが、大久野島に導かれた」のでしょうか。

近藤さんのお母様の飼われているうさぎの名前は「コニャ」。
姪御さんが「こんにゃくの色に似てる」ことから命名と。
この逸話も不思議な気持ちになりました。
うさぎは「生き残り」ではない
当時、毒ガスの研究に使われたうさぎ。
終戦時に処分された歴史が。
現在の「うさぎの楽園」には500羽以上のうさぎが生息。
DNAはたくさんの家族が混じりあった歴史を物語っているそうです。
このDNA解析を行ったのは、福島大学共生システム理工学類 教授の兼子伸吾氏。
「戦争中に逃げ出したうさぎの子孫がいないと断言はできない」「けれども、可能性は低いそう」です。
家族の入れかわりが繰り返されてきたとの予想。
では、どこから?
人間が関係しているのでしょうか。
ほとんどが外来種といわれています。
島のうさぎの寿命が極端に短い
大久野島に500羽以上のうさぎ。(2025年4月現在)
「のらうさぎ」にとって大久野島の環境資源では健康に生きて繁殖できる数を越えているそうです。
カイウサギの寿命は10年以上に対し、大久野島のうさぎは平均2年程度。
うさぎが生活する環境、食糧、ケンカ、病気…
忠海港では「うさぎのエサ」を販売しているそうです。

エサを売った収入は、もちろん大久野島のために使われているんでしょ?

そうだとよいですけど…
疑問ですね…

あれ?そもそも外来種にエサって与えていいんだっけ?
「うさぎのしま」現在にも残る傷
毒ガスの痕跡、ヒ素は地中に残っているそうです。
朽ち果てた、戦争遺構である建物。
「立ち入り禁止」と囲われた場所があるそうです。

「負の遺産」として戦争遺構は残して欲しいですが、国立公園を管理する国が手を打つ様子が見られないとは残念です。
イノシシ、海を泳ぐ
現在の問題の一つとして、イノシシが海を泳いで上陸し繁殖しているそうです。
うさぎのへの影響も懸念されますが、観光客の身の安全が心配です。
本州でもイノシシの被害がテレビでも放送されています。
実際に「ウリボウだ」と歓声があがることもあるとか。
「うさぎとイノシシのゾーニング」も今後の課題となるそうです。
プラタナスの奇跡
絵本の戦時中の大久野島のシーンに描かれるプラタナスの木。
訴えかけるものがあったのか、近藤さんは心惹かれて「描きたい」と強く思われたその木は、なんと2年後に切り倒される運命の木だったそうです。
近藤さんはお願いをして、そのプラタナスの木の整形された一部を譲り受けたそうです。

原画展にも展示されていました。
「この木は全部見ていたんだ」と思うと、胸が熱くなりました。
絵本の中で、その戦時中のプラタナスの木の横に、たてのさんのおじいさまを描いたそうです。
私たちの生活にも「戦争の恩恵」が
国際法で、戦争では「化学兵器」「毒」の研究・使用を禁止されています。(「生物兵器禁止条約(BWC)の概要/外務省)
大久野島ではどんなに秘密裡に行われていたことが伺えます。
その研究のおかげで「殺虫剤」が開発された、とたてのさんが教えてくださいました。

現代にも、その研究が「活かされいる」こと、私たちの生活に欠かすことのできないものになっているということも改めて知ることも大切です。
絵本専門士から見た絵本『うさぎのしま』
言葉が少なく、絵が多くを語っている絵本です。
ページを開くと美しい瀬戸内海が広がり、期待で胸をおどらせる人々が大久野島へ向かう船。
島ではかわいいうさぎたちに、目を細める大人とはしゃぐ子ども。
うさぎと目が合い、「あの子のおかあさんも白い?」という子どもの無垢な問いかけから物語は動きはじめます。
「じゃあ、おかあさんのおとうさんは?」と読者を過去へといざないます。
そして「うさぎの楽園」とはかけ離れた印象のガスマスクをした人が働く製造工場へと、時代が戻ります。
テキストのないページも。
「うさぎのしま」の歴史を知った後に読むと、息をのむでしょう。
巻末には、大久野島の歴史を専門家の解説があります。
たてのひろしさんの「願い」が「あとがき」に記され、胸に響きます。
後ろの見返しの「謝辞」を読むと、著者と様々な方との「奇跡的なご縁」に改めて驚かされます。
多くの人に手渡したくなる1冊です。
役に立つ書籍
未来に伝えるために
小学校でも、「平和」を考える単元や活動があります。
学校図書館も「考える場」「伝える場」として大切な場所です。
図書の時間で読み聞かせをしたり、「平和」の本を集めた特設コーナーを作ったりできます。

子どもの頃より、「戦争」を語るテレビ番組が減った気がします。
その上、現代の子どもは自分で選んだ動画の視聴が多いとか。
学校図書館の「役割の大きさ」を感じます。
役に立つサイト
「平和コーナー」以外のテーマ展示や学校図書館の整備について詳しく解説。すぐ使える資料やワークシートもDLできます✨

この記事は2026年8月16日に執筆しました。
状況が変化した場合、この記事は「歴史」として読んでいただけると嬉しいです。
よい方向へ向かいことを希望します。

